『NHKスペシャル 学徒兵 許されざる帰還 ～陸軍特攻隊の悲劇～』関係者発言より

第六十五振武隊　片山啓二さん お前たち　命が惜しくて帰ってきたのか そんな死ぬのが嫌か ひきょう者だとか死んだ連中に申し訳ないと思わないのかとか そういうことを毎日毎日言う訳です お前ら人間のクズだと 明野陸軍飛行学校 学徒出身のパイロット200人　昭和19年10月6日　訓練生全員が集められた 菅原中将が現れ訓示 君たちに特殊任務について欲しい絶対に生還できない任務である。 突然告げられた特攻作戦　紙が配られました。 そこに書かれた3つの言葉「熱望する」「希望する」「希望せず」 戦闘機というのは空中戦をやって　敵を撃墜して　勝ちを制するのが目的でしょう 爆弾をもって体当たりするというのは　戦闘隊の本来の目的じゃないし 何のために猛訓練をやってきたのかと こんなことをやるためにきたんじゃない　希望せずに丸をつけた 学徒兵たちは協議し、一度は全員希望せずに丸をつけます。 しかし、一人の同期の言葉に提出を思いとどまります。 菅原閣下がわざわざ足を運んでくれたことをもっと重く受け止めるべきだ 迷った末　大貫さんたちは決断します それでこれを消して　熱望すると・・・　学徒兵達の 　 希望せずに丸つけて出したら　どういうことになったかと思うとぞっとしますよ 当時の軍隊の組織というのは　上官の意思をくんで　部下が率先してやるのが　軍人の本分とされていましたからね 後から入隊した片山啓二さん 片山さんは希望に丸をつけましたが　周囲には「希望せず」に丸をした人もいました。 「希望せず」に丸を打った者でも特攻隊になってるのがおりましたから　そんなものは形式的なものだけであって　希望するもしないも全部ひっくるめて特攻隊を指名したんではないでしょうかね。ですから明野へおったときこんなのがおりましたもん、俺は希望せずなんだよな　だけど指名されてしまったよなというのがおりました。 こうして陸軍特攻隊は命令によってではなく　あくまでも自ら特攻を志願した部隊として編成されていったのです。 第二十二振武隊のように陸軍の主力機が配備される例は少なく　特攻機として主に使われたのは九七式という使い古された戦闘機でした。（故障が絶えず、飛ぶのがやっと　練習機として使われていた　飛行場の攻撃用で、重い爆弾を　ようやく九州にたどり着いたとき） 倉沢（清忠陸軍）少佐によれば、天皇の命令を受けて戦う飛行船隊と、志願による特攻隊とは区別していたといいます。 軍としては飛行機の良いのができたら　まず戦闘部隊ですよ　特攻隊じゃなくて戦闘部隊 飛行団というのはいっぱいありまして　そういうところに良いのが　戦闘部隊というのが天皇直結の部隊だからね　同じ死ぬのでも天皇直結に死ぬるのだから　まさか天皇直結の部隊にボロクソの飛行機やれないですよ 特攻隊が予定の半分も集まらない中　菅原中将は決断を迫られます。　海軍との共同作戦に後れを取る事はできない。　第二十二振武隊に出撃命令を下します。大貫さんたちの出撃は4月3日に決められました。 出撃を前に菅原中将は知覧を訪れ、第二十二振武隊を激励しました。お前たちはすでに神様である　国を救えるのはもうお前たちしかいない　心置きなく国のために任務遂行してくれ　決してお前たちだけでは殺さない　最後の一機はかならずおれが行って　お前たちの後を追うから　間違いなくそれを実行する　隊員たちに拳銃がわたされました。こめられた実弾は２発　不時着したときには一発ｓｗエンジンをぶち抜き　もう一発で自決するように言い渡されます。 予定されていた偵察機も結局飛びませんでした。大貫さんたちは、天候も敵情もわからぬまま、沖縄の海へと飛び立っていきました。 当時、出撃した特攻隊員のすべてが戦死したと信じられていました。しかし、生き残った隊員も数多くいました。陸軍の参謀が戦後密かに持っていた振武隊の編成表です。丸があるのが特攻で戦死した隊員、丸がないのが生き残った隊員、1276人のうち605人に丸がありません。帰還した特攻隊員の名前の下に、ある地名が書かれていました。在福岡。 特攻隊員の帰還者の多くは福岡市へ送られました。陸軍はこの場所に生き残った特攻隊員たちを収容する施設を作っていました。陸軍振武寮です。 特攻隊員が戻ってきていることが他の隊員に知られると、士気に影響する、また、国民に知られると　大本営の発表に対して疑いがもたれるようになる。軍は秘密裏に特攻隊員をここに隔離したのです。 片山啓二さんたちの隊は大阪で九七式戦闘機を貰い受け、知覧を目指しました。しかし、移動中に故障が続発、母の敵を討とうと航空兵になった片山さんですが、知覧で機体が動かなくなってしまいます。片山さんの隊で出撃できたのは3人、片山さんを含む9人は飛び立てず、福岡の振武寮に送り込まれます。 振武寮入ってびっくりしました。回り見たらもう出撃して死んだと思った者がみなごろごろしとったんです。ここは、そうか、特別攻撃隊の収容所か、思いましたね。 そのときの参謀の態度が非常に腹が立ちましてね、腕組みして、長靴がーんと格好で出しましてね、ふんぞり返って、貴様らなんで帰ってきた！ 飛行機が悪かったのであります　飛行機が悪かったんです　悪かったのはお前らの腕前だろう。 大貫さんと同じ第二十二振武隊の島津等さんも徳之島に不時着、振武寮に収容されます。 お前ら帰ってきたから、一人帰ってきたためにやな、何人の兵隊が助かっとる、向こうの兵隊ですよ、アメリカ軍がたすかっとる　何で死んで来なかった　言ったんですよ。理由の如何を問わずもう、お前ら国賊だ、いうて 軍神と呼ばれた特攻隊員たち、大本営はその戦果を大々的に発表し、国民は出撃した全員が華々しい戦死を遂げたと信じていました。 菅原中将の下で沖縄特攻作戦を推進した参謀の倉澤清忠少佐　振武寮を実質的に管理していました。 私の立場はね　特攻隊がみんな行ってみんな突っ込んでくれるという前提で仕事をしていたんですよ　だから私の方では　そんなにたくさん帰ってくるとはね　ゆめ考えなかったです　帰ってきてみな言わないほうがいいわけですよ　おれは途中で帰ってきたなんて 結果的に隔離所になるわけですよ 振武寮で倉澤参謀は生還した特攻隊員に軍人勅諭を書かせ、写経や精神修養、反省を日課として強いました。軍はここで隊員たちに、再び突入するための覚悟を植えつけようとしたのです。 大貫健一郎さんは、この振武寮で連日罵倒され、足腰が立たなくなるほど殴られました。 仲間の中には耐え切れず自殺した人がいるといいます。 倉澤参謀は、ひたすら国のための死ぬように、隊員たちに執拗に求めました。しかし、高等教育を受けた学徒兵は、参謀の言いなりにはなりませんでした。 元　第六航空軍　倉澤参謀 年齢若くして参謀なんかになってね　特攻隊にならないで　我々素人を特攻隊用に大学から引っ張って　話が違うっていう態度が　露骨には言わないけど消えなかったですね。 だからこれは悪口じゃないですよ　法律とか政治をしっちゃって　今の言葉で言えば人の命は地球よりも重いなんてことを知ってしまうと　死ぬのが怖くなる 理由なしには死ねない　大貫さんは倉澤参謀に責められながら　自分は何のために死ねるのかを考え続けました。 天皇陛下のためにでもない　国のためでもない　何のために　じゃ死なないといけないか　結局　身近な自分の家族　それから友達　親しいいろんな学友でもなんでもいい　身近な自分の小さなものでもいいから　守りたいと　おれの犠牲によって 第二十二振武隊　大貫健一郎さん（８６歳） 元陸軍特攻隊員　島津　等さん 何で死んでこなかったのかと言われた 理由のいかんを問わず　もうお前ら国賊だ  太平洋戦争末期　海軍に負けじとはじめられた陸軍の特攻作戦　勝算のない作戦は若い隊員たちに帰還を許さず　軍神として死ぬことを強いるようになっていったのです 特攻隊員と運命を共にすると言っていた菅原中将は　結局　自決することはありませんでした。多くを語らぬまま昭和５８年９５歳でその人生を終えました。